サルでは分らない?デザインの話〈その8〉

色のはなし(2)

「あなたの家の台所用洗剤は何色ですか?」

 

いきなり唐突な質問ですいません。

台所用洗剤はどこの家庭でもあると思いますが、あなたの家は何色をお使いですか?

黄色? 白? それともグリーンですか?

今でこそ家庭に様々な色の台所用洗剤が置かれていますが、戦後のこの商品のパッケージ色の変化は、我々のライフスタイルおよびマーケティングが「色」をどう認識していたかを表す良い例なので、ちょっと書いてみたい思います。

僕の幼い時分(1960年代)、台所用の洗剤というと箱に入った粉状のクレンザーでした。

少し進んだ家庭になるとライオンの「ライポンF」(液状の最初)あるいは花王の「ワンダフルK」といった商品もありましたが、まだまだ一般的な普及とは言えませんでした。

このようにライオンと花王という二大メーカーが、この分野のシェアをこの後もずっと競い合うことになります。(現在は違いますが)

60年代も後半に入ると、日本の食卓はますます欧米化して、手早く油汚れを落とせる台所用洗剤の商品開発は二大メーカーの急務となります。

まず先陣を切ったのはライオンでした。ライオンは当時日本でも徐々に浸透してきた「マーケティング」理論を活用し、まず台所用洗剤の「色」についての一般的認識をリサーチしました。

それまで洗剤のイメージというとやはり「白」というのが一般的でした。「白」はやはり「清潔」さの代名詞ともいえる色です。

しかしリサーチの結果などを見ると意外な結果が現れました。「白はきれいだが、汚れが付くと目立ちやすく汚くなる」というイメージも多かったのです。そして「白」に代わる新しい「色」を商品イメージとして大々的に打ち出すことにします。

それが1966年に発売された「ママレモン」でした。

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ご存知のようにママレモンは大ヒットとなりました。

おそらく僕らの世代に限らず、台所用洗剤の色のイメージといえばママレモンのあの「黄色」という方が多いのではないかと思います。

ママレモンのパッケージの鮮やかな黄色は日本中を席巻しました。油切れの良さやレモンの香りという商品そのものの新しさもありましたが、今までにはなかったレモン「黄」という色の新鮮なイメージがヒットの大きな要因となりました。

日本でのいわゆる「色」をテーマとして「マーケティング」手法が顕著に大成功した最初の例と言えるでしょう。

ママレモンの後塵を拝した花王は、ママレモンに変わる新しい台所用洗剤のイメージ創りに必死でした。

70年代に入ると台所用洗剤も含めて、合成洗剤の刺激の強さが問題化し始め、ママレモンもその例外ではなく、何度もモデルチェンジを繰り返していました。加えて世の中は核家族化がさらに進み、いわいる「ニューファミリー」と言われる新しい男女感覚の家族が増えていきます。

花王はそこに目を付けました。

花王は新商品のコンセプトを「優しさ」として、商品のカラーイメージもママレモンの「黄色」に大きく対抗して、当時業界ではタブーと言われた「ピンク」のパッケージで売り出します。

これが1972年に発売された「チェリーナ」です。

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「♪チェリーナ、君のかわいい手」

今でも口ずさめる忘れられないCMです。花王は台所用洗剤のコンセプトに、商品の品質に加えて新しいライフスタイルへの提案を前面に打ち出してきたのです。

ピンクという色は、当時まだ猥雑さや幼稚性を誘うイメージが強く、家庭用の商品には不向きとされていました。しかし新しいタイプの家族が増え、家事に対する女性への「いたわりや優しさ」をピンクという色で表現したのです。

チェリーナはそのCMと共に大ヒットとなりました。やはりこれも花王のマーケティングの大きな勝利でした。

チェリーナ以降、ライオンも花王も様々な試行錯誤を繰り返しシェアを争いました。消費者のエコ意識はますます大きくなり、台所用洗剤も、より天然、自然のものを求めるようになっていきます。

花王が81年に発売した「ファミリーフレッシュ」、ライオンが82年に発売した「チャミーグリーン」。共にパッケージはグリーンとなります。

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グリーンは自然や天然を表す代名詞の色で、2社共に当然の帰着とも思われますが、イエローやピンクのような強いメッセージ性はなく「社会的な」というようなヒットには至りませんでした。

そして同時に、もはやマーケティング理論だけでは消費者のニーズをつかめない時代に入ってきているという現れでもありました。

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現在、台所用洗剤は様々な色の商品であふれています。

商品の価値を色で選択するなどというニーズは現代ではかなり薄れてきました。

しかし、戦後の消費社会の中で「色」のマーケティングが果たした変遷みたいなものを台所用洗剤は如実に表しています。

同時に当たり前のことですが、我々が認識する身の回りの「色」の意味合いも、知らない内に社会性の中で変容を遂げていることに気がつきます。

あなたのお家の台所用洗剤は何色ですか? もう一度見直してみるのも面白いかもしれません。

小林茂男

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One thought on “サルでは分らない?デザインの話〈その8〉”

  1. 100%緑色ですね。洗剤を買ってくるのも、洗い物をするのも100%私の仕事なので、100%自信をもって言えます。でもなぜ緑色なのか、深く考えたことはないような。そもそも他の色があったかなぁ…。
    ただ昔のこと、幼少時から大学時代くらいまで、我が家の台所でどんな洗剤を使っていたのかは、まったく覚えていません。母が、「男子は厨房に入るべからず」の人だったので、自分で洗い物をしたことがなかったからでしょうね。今はその報いがドーンと来ている感じです。トホホ……。

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